昨年春から手がけているにも関わらず、いまだ解決していない事案があります。とある専門家から打診のあった日中間の渉外民事案件です。相手方は現地在住の中国人女性です。
個人を扱う場合の渉外民事あるいは渉外法務というのは、いわば心と心を扱う問題であって、人間臭い対立がそこにあります。また、この案件は日本法が準拠法となりますが、法律の問題とは別に、日本の慣習というものも無視するわけにはいきません。外国人に日本人独特の慣習を理解させるのは至難のワザです。そこに渉外法務のひとつの難しさがあります。
そういった事情からなかなか進展せず、依頼人に申し訳なく思うと同時に、文化や思考回路、慣習の違いを超えてうまく解決するには、相手の焦りを引き出すこと、つまり、時間をかけて辛抱強く対処していくことも大切だと考えています。
昨年の夏、勝負を挑みに敵地へ乗り込みました。本人家族との接触には成功し、それなりに進展はあったものの、やはりそこは中国人、毎回要求が変わり、一筋縄ではいきません。その後、作戦の一環として、ときおりこちらから相手に連絡を入れています。日本の依頼人の利益を守るのが私の任務ですので、彼女とは本来、敵対関係にあります。けれども、なにを勘違いしているのか、彼女が電話のたびに親しげにあれこれと話しかけてくるので、相手のペースに引きずられないよう注意しつつ、友好的に接することで相手を安心させ、情報を引き出すようにしています。
今年のお正月のこと。出張先の北京現地法人のオフィスから、夜、彼女に電話する私。話し相手に飢えていたのか、ガイジンである私に、早口でまくしたてる彼女。そのうち、「あなたの仕事もたいへんよねぇ。でも、あなたとは会ったことがないように思えないの。こうして話しているとね、なんだか友だちみたいな気がするの。同じ女同士だし。ねぇ、旧正月はどうするの? 予定がないならうちへ遊びに来ない? 大歓迎よ」と友だちにされた挙句、結局2時間も話し込んでしまったり・・・
そして、GWのこと。ようやっとつながった電話の向こうでは、いつになく元気のない声。父親が病気でたいへんだとのこと。「なぜ電話くれたの? なにか用だったの?」「別に用事はないんだけど、どうしてるかなぁと思って」「そう。ありがとう。あなたって本当にきれいな声してるわよね。聞いてると心地いいっていうか、癒される」としんみりされたり・・・
こちらの意図とは裏腹に、相手はいつも無邪気な友だちモード。
敵とのコミュニケーション(おしゃべり)さえ楽しむ、いえ、コミュニケーション術によって敵を味方に引き入れるのが中国人なのかもしれません。けれども、決して情にほだされてはいけません。村社会で純粋培養されてきた日本人は、善意にものごとを解釈しがちですが、あくまでも敵は敵として臨むのがポイントです。
このように、生まれながらの商人にしてコミュニケーションの天才相手に策略を練り、駆け引きし、解決を図っていかなければならない日中国際法務は、奥の深~い仕事です。そして、この中国人の性質をどう利用して彼女の上手をいくか? 彼女を取り巻く状況の変化をどう解決のきっかけにしていくか? 次なる一手を思案する私です。